大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)3382号 判決 1969年10月04日
原告 道円武雄
右訴訟代理人弁護士 小倉武雄
同 密門光昭
同 小堀真澄
同 青野正勝
右訴訟復代理人弁護士 鈴木純雄
被告 若宮松蔵
右訴訟代理人弁護士 中島寛
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
≪証拠省略≫を総合すると、本件従前土地は元明山幸子所有のものであったところ、明山光宏において昭和二〇年二月一六日相続によりこれを取得し、原告は右明山光宏から昭和三六年七月七日売買により右所有権の譲渡を受け同月一一日その旨の所有権移転登記手続を完了したこと、本件従前土地は昭和二三年一二月一〇日大阪市から当時の登記名義人明山光子に対し特別都市計画法一三条(当時)により大阪復興特別都市計画事業に基く土地区画整理換地予定地指定通知があり(当時現実の所有者であった明山光宏が受領)仮換地として本件換地予定地が指定されたこと、右指定には通知を受けた翌日から換地予定地の使用ができる旨の記載があり、いわゆる使用または収益を開始することができる日を別に定めて通知されなかったこと、右本件換地予定地は同市浪速区元町二丁目四九番地を含み同地上には昭和三六年七月一一日以前から被告所有の木造鉄板葺平家建一棟一五・八六坪(以下本件被告の建物という)があったところ施行者からの土地区画整理法七七条に基く指示により同四四年三月一〇日被告において右建物を撤去したこと、右元町二丁目四九番地の土地(本件換地予定地)は元木村信太郎所有のもの(被告は同人からこれを賃借していた)であったところ昭和三五年七月五日同人から売買により末沢正行、原近三の両名に対し譲渡され、被告は同三七年六月一日右両名からこれを買受け現在右土地の所有者であること、右四九番地の土地は本件従前土地に対する仮換地指定がなされたのと同じ昭和二三年末ごろその仮換地として湊町工区ブロック番号一五符号三(約二六・二五坪)をいわゆる使用開始の日を別に定めず指定されていることがいずれも認められ右認定を左右するに足る証拠はない。
よって、原告訴訟代理人が被告による本件換地予定地の占拠期間を不法占拠としてこれによる損害賠償を求めるので検討するに、およそ使用または収益を開始することができる日を別に定めず仮換地が指定された場合は従前の宅地について所有権を有する者は仮換地指定の効力発生の日から仮換地について所有権と同内容の使用収益をすることができるのであり、これを本件についてみると、原告は本件従前土地を買受けた時から本件換地予定地に対し所有権と同内容の権利を取得しているものであり右土地に対し使用収益は勿論、これらの権利行使を妨害する者に対しては(その土地を従前の土地とする正当権限者に対しても)これを排除できるのであり、不法行為の要件を備えるときは右権利の侵害者に対し損害賠償請求もできるものと考えるのが相当である。
ところで、原告の損害の有無について検討するに、仮換地制度の特殊性を考えると、従前土地と仮換地とはその使用収益上いわば後者は前者に代るものとして取扱っており単に価値的にのみならず物理的にも同一性あるものとしてそれぞれの上に行使する権利について区別をもうけていないのであって、従って、前者を使用している限り(その土地を仮換地として指定された者に対する関係では明渡すべき義務はあるけれどもこれを経済的観点にたつと)後者の使用に代るものとして特別の事情ないかぎり使用収益上の損害はないものというべきところ、これを本件についてみると、原告において本件従前土地をこれまで使用してきており(この点については原告において明らかに争わないから自白したものとみなす)、本件従前土地が七三坪であるのに対し本件換地予定地は五〇坪であって隣接しているのであるから、早期に移転しなかったため営業上の得べかりし利益に差額が生じたとか、従前土地を使用していたためその前者に対し損害賠償させられたとか等他に特段の損害発生について主張立証がない限り原告において被告の本件土地占拠により損害があったものと判断することはできない。
そうすると、その余の判断を待つまでもなく原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 吉田秀文)
<以下省略>